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2024.11.27 Wed

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上司不在の組織「ホラクラシー」はうまくいくか

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　米アパレル関連のネット通販サイトを運営するザッポス・ドット・コムで働くブリロニ・アレックスさん（26）は顧客からの電話や電子メールへの応対がうまい。会社はアレックスさんをカスタマーサービスの責任者に抜てきした。

　ところが、会社が「ホラクラシー」と呼ばれる組織哲学を導入すると、アレックスさんの肩書きはなくなり、人事考課で責任を負うこともなくなった。4月末以降、ザッポスには管理職が一人もいなくなったからだ。従業員は仕事の進め方について、主に自分で判断することになった。

　アレックスさんは「今は業務を管理しているが、以前は従業員を管理していた」と話す。現在は全社的にホラクラシーの実行を推進するチームの一員だ。元管理職は新たな仕事を保証されたわけではなく、翌年には給料カットもあり得るが、ザッポスはその可能性は低いと話す。アレックスさんはこの新たな哲学の導入のおかげで、職場のダイバーシティーに取り組む委員会に費やす時間と、ザッポスのダンスチームで活動する時間が増えたという。

　ただ、この組織改革は他社とは異なる方法を取り入れることで有名なザッポスにおいても、社内に波紋を引き起こした。今月に入り、1500人ほどの従業員のうち14％に相当する約210人がホラクラシーになじめないことを理由に退社を決断した。彼らには少なくとも3カ月分の退職金が支給される。

　トニー・シェイ最高経営責任者（CEO、41）は3月下旬、従業員宛てに4700ワードにおよぶメモを書いた。その中でシェイ氏は「セルフマネジメント（の目標）に向けた進み具合が十分なスピードに至っていない」とし、早期退職報奨金は取り組みを加速させる一環だと説明した。

　従業員は、この新しいシステムは分かりにくく、時間がかかると話す。特に導入当初は元上司から解き放たれた従業員が「サークル」と呼ばれる作業グループを新たに構成したり、ホラクラシーについて学んだりするために週5時間も余計な会議をしなければならないこともあった。

　ホラクラシーとはソフトウエア企業元幹部のブライアン・ロバートソン氏（36）が提唱する組織哲学で、30ページにわたる「憲法」にその考え方が明示されている。この哲学の下では、仕事に従事することを「役割を活発化させること」と呼ぶ。職場での懸念は「ストレス」であり、情報の更新は「戦術的な会議」で行われる。

　ザッポスのシェイCEOは、ホラクラシーの実施には「時間がかかり、多くの試みと失敗を伴う」と認めている。それでもこのシステムは「（従業員が）起業家のように行動」し、「アイデアの流れ」や協業体制、イノベーションの迅速化を促す効果があると信じていると言う。

　こうした組織力がザッポスの売り上げを伸ばすことに役立つはずだという。ただ同社は、これまでに財務面でどれだけの影響があったのかについては言及しなかった。ホラクラシーはザッポスが採用しているセルフマネジメント法の一つにすぎないとシェイ氏は話す。

　上司不在の会社は、交通渋滞を生み出し、生産性を低下させかねない管理職のヒエラルキーをフラット（平坦）にしようと試みる最近の潮流のなかでも極端な例だ。防水透湿素材ゴアテックスのメーカー、W.L.ゴア＆アソシエーツによると、同社は１万人を超える従業員を抱える年商30億ドル（約3600億円）超の企業だが、従来の企業によくあるような組織図や命令系統を持っていないという。

　ただ、管理職のいないフラットな組織の効果は企業によって異なる。一般的にクリエーティブな仕事に従事する意欲の高い従業員には最適のようだ。

　ホラクラシーを「発明」したロバートソン氏は「システムの中で何か壊れたものを直す手段としてではなく、次の段階へ進むための方策としてホラクラシーを（企業は）採用している」と話す。

　約10年前にホラクラシーの考えが登場してから、300社ほどの企業が導入を試みた。その中には時間管理術で有名なデビッド・アレン氏のコンサルティング会社や、ツイッターの共同創業者エバン・ウイリアムズ氏が始めたオンライン出版のプラットフォーム運営会社ミディアムも含まれる。

　輸送業の新興企業シフトはホラクラシーの導入を試みたものの、1年足らずで断念した。会議の回数が増えすぎたほか、意思決定の権限の所在があいまいになったためだ。シフトはザッポスの元管理職ザック・ウエア氏が共同創業した会社だが、今年3月に閉鎖が決まった。

　ホラクラシーを少なくとも1年間採用した企業は全体の約80％を占めると創案者のロバートソン氏は指摘する。「影響が大きく痛みを伴う変化――ホラクラシーがまさに影響が大きく痛みを伴う変化だが――を取り入れる際には、たとえそれがもっともな理由からであったとしても、人が最初に経験するのは痛みだ」と話す。

　ザッポスの研修センターで昨年秋、ホラクラシーへの移行について3日間のオリエンテーションを行ったジョン・バンチ氏は、研修中に混乱もしくは退屈しているように見えた従業員もいると話す。ただ、研修を終えた反応は「おおむね肯定的」だったと言う。

　シェイCEOはザッポスがホラクラシーへの移行を完了するまでには2年から5年かかると話す。従業員の14％が離職を決断したことにもへこたれていない。「別の見方をすれば86％が『楽に稼ぐ』ことと決別し、会社に残ることを決めた」と話す。ザッポスは採用を増やす計画だ。

　元カスタマーサービス責任者のアレックスさんは新たな哲学の導入により、会議が効率性を示すモデルに変わったと話す。アレックスさんは最近、90分の間に27の案件を処理した。ホラクラシーの導入以前は「会議室に入るとまずユーチューブのネコの動画の話をして、生産的な時間はたぶん10分あるかないかだった」と言う。