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「この子を一緒に、施設に連れて行きたいんです」
2013年、電子機器修理の「ア・ファン」(千葉県習志野市)に、年配の女性からソニーのイヌ型ロボット「AIBO(アイボ)」の修理依頼がきた。1999年に発売され、家庭向けロボットの先駆けとなったアイボの修理は、ソニーOBらでつくる同社にとっても初めてだけに、社長の乗松伸幸(60)には自信はなかったが、「やってみよう。道は必ずある」と引き受けた。
ソニー時代のつてをたどって情報を集め、数カ月かかって何とか修理に成功。それが口コミなどで広がり、同社には全国からアイボの修理依頼が舞い込む。これまで200体近くを修理したが、まだ260体余りが修理待ちの状況だ。アイボの販売をソニーは既にやめ、修理も受け付けていない。「所有者が特別な愛着を抱く商品。修理会社に委託するなど方法はあったはず」。ソニーの対応に乗松は首をかしげる。
トランジスタラジオ、トリニトロンカラーテレビ、ウォークマン…。ソニーを代表する家電のヒット商品は、ちょうどアイボの販売をやめた2006年ごろから目立たなくなった。10年末に退社した乗松は「社内が、売り上げなどお金の話ばかりになってきた。昔は『お客さんにどういうサプライズを与えるか』を絶えず考えている会社だったのに」と振り返る。
今年4月、副社長に就任した鈴木智行は技術者出身だ。社長の平井一夫からは「技術のソニーをもう一回、復活させてください」と頼まれた。それまで想像もできなかった製品を提供し、新しい感動を生む。そうした家電における革新はソニーの代名詞だった。しかし鈴木は「ここ10年ほど、それができていなかった」と言い切る。
入れ替わるように飛躍したのが米アップルだ。07年にスマートフォン時代の幕開けとなる初代「iPhone(アイフォーン)」を発売し、現在も日本国内のスマホの約6割を占める。ソニーは、革新的な企業というお株を奪われた格好だ。「一つの技術が一つのヒット商品を生み出せる時代ではなく、優れたハード、ソフト、デバイス(電子部品)を結集させなければならない」。鈴木は危機感を募らせ、事業部や子会社などとの横の連携を強める。
「このサービスにお金を払う人がこれだけいるという根拠は、何ですか」。ソニー本社の大会議室で、審査員から厳しい質問が飛ぶ。社員のグループがアイデアを持ち寄り、新規事業の開発につなげる“オーディション”。約1年前にプロジェクトを立ち上げ、100人程度の参加を見込んだ説明会には1200人の応募があった。新規事業創出部担当部長の小田島伸至は「やはり『新しいことをやりたい』という人材は多い」と実感した。
3カ月ごとに新たなアイデアを募集し、合格した案件も3カ月ごとに進捗(しんちょく)をチェックしている。これとは別に30代の社員が着想した電子ブロック「MESH」も市販の準備に入るなど、かつてプレイステーションやネット銀行を世に送り出した「革新力」が胎動し始めている。ソニーは好業績だけでなく、革新につながる何かを期待される宿命を負う。不採算事業の切り離しといった構造改革で守りを固める成果は出始めているが、「攻め」に転じるのはこれからだ。
世の中を変える画期的な商品やサービスを生み出す「世界のソニー」に戻れるのか。早大商学学術院准教授の長内厚は「立ち直ってきた今だからこそ、トップが5~10年先のソニーがどうあるかというビジョンを示すべきだ」と指摘する。ソニーの将来は、平井ら現経営陣のリーダーシップにかかっている。(敬称略)
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