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拉致被害者をはじめ、北朝鮮に在住するすべての日本人の調査することに日朝両政府が合意して一年が過ぎた。これまで北朝鮮からは何の報告も回答もなく、日本社会からは失望の声が強まっている。一方、京都府警がマツタケ不正輸入容疑で朝鮮総連系の商社を摘発し、総連議長の次男の逮捕起訴に至るなど、日本政府は圧力を強めている。日本人調査の行方はどうなるのか? 金正恩政権は何を狙っているのか?世論形成に強い影響力を発揮して来た拉致被害者家族会はじめ救出運動の内実は? 元家族会事務局長の蓮池透さんと石丸次郎の対談を連載する。(アイ・アジア編集部)

【他の写真を見る】 北朝鮮国内で撮影された横田めぐみさん

石丸:まず昨年5月に、北朝鮮が調査委員会を作ると共同声明が発表された時、どう思われましたか?

蓮池:最初に思ったのは、2008年の合意にやっと近づいたなと。

石丸:福田内閣の時の再調査の合意ですね。

蓮池:2008年の合意に戻るまで6年もかかってしまったというのが、それが第一に感じたことです。それから、日朝合意の中身を見ると、調査の対象がものすごく広範囲で、これはまずいなと思いましたね。

石丸:というと?

蓮池:拉致と特定失踪者と行方不明者、残留邦人とか日本人妻とか遺骨の問題とか全部やるという。これはもう国内ではいろんな人(北朝鮮との関係で課題を抱えている人)は喜ぶだろうけれど、やり方としてはこんなんでいいのかな?と思いました。それら調査全体で一年とかって言ってましたから、北朝鮮にとっては出しやすいものから出してきて、結局、拉致問題なんて最後の最後になるだろうなと。

下手すると、ずるずるして一年じゃ終わらないんじゃないかなと思いましたが、やっぱりその通りになってしまいましたね。調査の対象範囲を広げるというのは、日本じゃなくて、北朝鮮側がそう言ったんでしょうけれど。

石丸:そうだと思います。日朝交渉を始める上で北朝鮮側は、結果を出すからには何か見返りが欲しいと、当然考えます。それが外交というものです。日本側からすれば、外交的には「見返り出すからには、それに見合った結果がもたらされなければいけない。それを詰めていきましょう」となる。

でもこれは、本当は2008年にやっておかなければいけなかった話です。2008年、福田内閣が退陣する直前になんとか再調査することで合意した。本当は再々調査なのですが...。小泉さんが北朝鮮に初めて行ってから6年、たいへんな時間が浪費されてやっと入り口に立った。ところが、それからまた6年も経ってしまった。

昨年5月に調査委員会を発足させた時、北朝鮮側は対価を必ず取らなければいけないと考えたはずです。まずは日本人調査全体をパッケージにし、拉致問題をその一部と位置づけて希薄化させたいという思惑があったと思います。日朝間には懸案がいろいろあります。遺骨問題もやらなければいけないし、日本人妻も日本に帰りたい人は帰って来られるようにしなければいけないでしょう。

それらいろんな課題が前進して、全体として見ると少し動いたとなったら、日本側から対価もちょっとずつ小出しでもらえるだろうというのが、北朝鮮の戦略だったと思うんです。私はこれを「抱き合わせ販売」と書きました。安倍政権は拉致を真っ先に進めたかったけれど、北朝鮮側は、全体として前進なら見返りをもらいたい。日本側はそれを一応飲んで協議再開となったわけです。

私は、対価は個別の案件に対して各々別途に渡すべきだと思います。日本人妻の問題では、例えば、渡航費全部持ちますとか、遺骨の問題なら、経費も掛かるだろうし、手数料的なものも必要でしょうし、謝礼はしなければならない。だけど、抱き合わせにしてトータルでいくらみたいな形に乗っかるというのは、それは違うと。

私は昨年5月の調査開始の発表があった後、対価を払うこと自体については、日本国民は支持するでしょうから、その対価の話を先オープンにするべきだと主張しました。そうではないと相手の「抱き合わせ販売戦略」に乗っかることになると考えたからです。結局、やっぱり一番難儀な問題である拉致に日本の関心が集中すると「おかしなことを言う政治家がいる」とか「おかしな風潮が出ている」と、北朝鮮側は牽制球を投げてくるようになりました。他のものも停滞してしまうぞと。

そうなると日本の中が分断される。「なんだ、拉致関連の人は自分たちのことばかり言って」とか、「おい、遺骨関連の人ちょっと我慢してよ」というように。それは、北朝鮮側にすれば悪くない。全体として自国に対するプレッシャーが以前よりも低くなって、「これぐらいでいいんじゃないの」「北朝鮮も誠意を見せたじゃないか」というように、日本の世論が軟化するということになれば、北朝鮮側にしたら得点になります。(続く)

※2008年の再調査
福田政権の2008年6 月、北朝鮮側は従来の「拉致問題は解決済み」という姿勢を転換、再調査の実施を表明した。しかし、9月1日に福田首相が辞任を表明したことで、金正日政権は再調査実施を中断した。


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